発端

  • 1998年8月、東京。
入社2年目の山崎智雄は、髙城社長と共に商品展示会に参加していた。DIY(自分でつくること)を趣味とする人々に向け、庭用の散水用品をはじめ、蛇口や浄水器といったタカギの主力商品をPRするためだ。

ふと気がつくと、ブースに女性客が立っていた。何やら髙城社長と話し込んでいる。商品説明は自分の仕事。山崎はあわてて二人に近づいていった。

「…これ、ひとつになればいいのにねえ」

その女性客は、ぽつりと漏らした。蛇口と浄水器を別々に取り付けるのは面倒だと言うのだ。気持ちはわかるが、それはそういうものとして理解してもらう他はない。技術的に不可能…と言いかけた瞬間、隣にいた山崎は、髙城社長の表情がみるみる変わっていくのを目撃する。
  • 「本社に電話してくれ。一体型をつくるぞ!」

展示会終了後、髙城社長は言い放った。たしかにアイデアとしては画期的だと思うが、あんな小さな空間に収まる浄水器など見たこともない。
社長の一人相撲で終わらなければいいが…

開発部に連絡を取り、プロジェクトに参加できるスタッフを確認すると、田中章太郎と白武史考が手を挙げたという。どちらも自分と同期。つまり、入社2年目の新人である。経験も知識もない見習いエンジニアに務まるのだろうか?
しかし、髙城社長は快くGOサインを出す。

「忙しくなるな」
山崎は、嵐の到来を予感していた。
  • 山崎智雄
1997年4月入社(当時/27歳)
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