ボールペン

  • 浄水カートリッジの小型化が成功した頃、白武史考はまったく別の問題に直面していた。「浄水」と「原水」を切り替えるスイッチである。機構を埋め込めるスペースは、わずか15mm四方。外付けのレバー方式にしてしまえば解決する問題であったが、白武は、どうしても内蔵にこだわりたかった。これからの時代、売れるためには製品のデザイン性が重要だと考えていたからだ。頭の中で水の流れをイメージし、3D-CADを使って切り替え装置を設計する。しかし、何度やっても、どうやってもうまくいかなかった。開発がスタートしてからの3ヵ月間、白武は何もできない自分に苛立っていた。周囲からの叱咤や激励も、どこか遠くに感じられた。
  • 設計に煮詰まっていたある日の会議。誰かが使っていたボールペンが白武の目に留まった。上部のボタンによってペン先を出し入れする「ノック式」だ。カチカチと、メカニズムを確かめながら、くりかえし押してみる。そのとき白武の頭脳に閃光が走った。「これだ」弁の代わりに直径12mmのステンレス球を入れ、その位置によって水の流れを切り替えるのだ。球を動かし、固定するのは例の「ノック」によって行う。それぞれのパーツがあるべき場所におさまり、ようやく最初の設計が完成したのだった。無論、ここまでで第一段階である。部品の調達、組み立て工程の確立、品質検査など、まだまだ数多くの超えるべきハードルが残されている。
  • 白武史考 1997年4月入社(当時/24歳)
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