こんなものが売れるのか?

  • 吉武和樹 1988年4月入社(当時/30歳)
  • 吉武和樹は戸惑っていた。「みず工房」の営業をまかされることになったからだ。もちろん、新商品開発のうわさは聞いていたし、本社に立ち寄った際には試作品も見せられた。しかし、散水用品の営業である自分にはまったく関係のない話だと思っていたのだ。「こんなものが売れるのか?」内心では疑っていた。住宅設備業界において、タカギの名前を知る人など皆無だ。いくら画期的な製品だとしても、信頼なくして売れるほど甘くはない。第一、どこの誰に提案すればいいのか、見当すらつかない。途方に暮れながらも、吉武はまず、付近の個人宅を訪問してみた。取り換えのニーズは感じるが、怪しまれるばかりで、契約してくれる人はいなかった。
  • 次に、工務店や水道工事のお店を当たってみる。電話帳で手当たり次第に会社を調べ、アプローチした。が、この方法もダメ。どこへ行っても門前払いを受けた。すでに大手メーカーの製品を扱っているところに、タカギが入り込む余地はなかったのだ。設備会社、ガス会社、ハウスメーカーなど思いつく限りのルートを探し、製品カタログを持ちこむ。ときにはマンションのモデルルームの外で、出てくる人を待ち伏せしたこともあった。それでも、契約数は伸びなかった。いったいどうすれば現状を打破できるのか。どこに提案すれば、市場に切り込んでいけるのか。吉武の試行錯誤はおよそ5年間も続いた。
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